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岡山地方裁判所 昭和46年(わ)638号 判決

主文

本件は管轄違

理由

職権をもつて、事物管轄の有無につき、調査する。

本件公訴事実は「被告人は、岡山大学学生であるが、ほか一〇数名の学生と共謀のうえ、昭和四六年六月一五日午後一時四〇分ごろ、岡山市津島所在岡山大学構内通称東西道路と南北道路との交差点内において、車座になびて約一五分間に亘り、坐り込んだり、しやがんだりし、もつて交通の妨害になるような方法で坐り、しやがむなどの行為をしたものである。」というものであり、右事実が道路交通法第一二〇条第一項第九号第七六条第四項第二号刑法第六〇条に該当するとして起訴されたものであるが、右道路交通法第一二〇条第一項によれば法定刑として罰金刑のみが定められているから、本件は本来簡易裁判所の専属管轄に属するものである。

ところで検察官は、本件は当地方裁判所に係属する被告人上野満雄に対する暴力行為等処罰ニ関スル法律違反、道路交通法違反被告事件と関連するので、刑事訴訟法第三条により、本件を右事件に併合して審判されたい旨主張するので、その当否につき検討する。

刑事訴訟法第三条は本来上級の裁判所の管轄に属しない事件でも、上級の裁判所に係属する固有の管轄事件と関連するときは、これと併合して審判することができる旨を規定したものであり(なお同法第五条は本条を前提とした審判併合の手続規定である)、裁判所法による事物管轄の定めの例外の一をなしているが、同条により上級の裁判所が関連管轄を持つのは、固有の事物管轄事件と直接関連する事件(直接関連事件)に限られ、他の固有管轄事件と関連するため、その裁判所が関連事件として管轄するに至つた事件(関連管轄事件)と関連する事件(固有管轄事件との関係では間接関連事件)を含まないものというべきである。

なぜなら事物管轄は、本来事案の軽重ないし審判の難易等事件一般の客観的性質に即して画一的に各級裁判所間に分配されるべきものであり、この原則に対する例外的取扱いをするのは、訴訟経済ないし処分の均衡を図る必要があり、または被告人の利益に合する等合理的な理由のある場合に限られるべき筋合のものである。そうして裁判所法の事物管轄規定に対する例外規定の一である刑事訴訟法第三条は文理上、「関連」事件の範囲を制限しておらないように見えるが、同条の適用範囲如何は、右に述べた事物管轄規定のあるべき本質に照らして検討せらるべきところ、関連事件のうちでも前述したいわゆる直接関連事件については、これを併合して審理すれば、同法第九条第一項第一号に規定する主観的関連の場合には、重複手続の負担を免除するという意味で、被告人の利益に合しこそすれ、通常著しい幣害は考えられず、また同条第一項第二、三号に規定する客観的関連の場合には、証拠調の重複防止等の訴訟経済及び処分の均衡保持に資するとともに、通常被告人が不利益を受けることはなく、また不利益を受ける場合でも、それは「共に」又は「通謀」して犯した事件であるための故であつて、被告人にその忍受を強いることが不合理ではないと認められる。ところが、いわゆる間接関連事件については、直接には何ら関連のない事件が、他の事件を介し間接的に関連するが故に関係事件として上級裁判所において併合審判されることを認めると、間接関連の環は無限に拡がる可能性を持つから、そのうち直接関連する事件が同一手続で審理されることになるという点では、前記訴訟経済ないし処分の均衡保持の要請には合しても、反面被告人が何ら関知しない事由に基づき管轄を持つ裁判所において審判されるに至るという点でその利益を著しく阻害する可能性があり(関連事物管轄の定めは土地管轄の定めをその当然の結果として含んでいるからである。)、かかる事態が制度的に生ずることを、刑事訴訟法第三条が予定しているものとは、とうてい考えられない。

本件についてみるに、検察官が本件と関連すると主張する被告人上野満雄に対する被告事件のうち、暴力行為等処罰ニ関スル法律違反事件は、当地方裁判所の固有事物管轄に属するものであるところ、道路交通法違反事件は右事件と直接の関連事件であるから、前述したとおり刑事訴訟法第三条により当地方裁判所に関連事物管轄が生じているものであるが、本件は当地方裁判所の固有事物管轄に属する右暴力行為等処罰ニ関スル法律違反事件と直接関連するものではなく、右関連事物管轄事件と関連するにすぎないものであるから(起訴状記載の公訴事実自体からは、関連事件であることが判然としなくとも、訴因の同一性を害しない範囲内において、検察官の釈明により、それが明らかになつた場合には、なお関連事件として取扱うことができるものと解されるところ、第一回公判期日における検察官の釈明によれば、本件被告人と右被告人上野満雄は共謀して本件犯行をなしたものとして起訴されたものであることが認められるので、両者が関連することは肯定できる。)、当地方裁判所に適法に係属する被告人上野満雄に対する被告事件の一と関連するからといつて、刑事訴訟法第三条により本件を右事件に併合して審理することは許されないものである。

よつて、本件は簡易裁判所の専属管轄に属し、当地方裁判所の管轄には属しないから、同法第三二九条本文により、主文のとおり判決する。 (大森政輔)

〈参考〉他の被告人の起訴事実

公訴事実

被告人は、岡山大学学生であるが、ほか一〇数名の学生と共謀のうえ、

第一、昭和四六年六月一五日午後一時四〇分ごろ、岡山市津島所在岡山大学構内通称東西道路と南北道路との交差点内において、車座になつて約一五分間に亘り、坐り込んだり、しやがんだりし、もつて交通の妨害になるような方法で坐り、しやがむなどの行為をし

第二、同日午後二時一〇分ごろ、右南北道路において、折柄同所を北進中の河本節子運転の普通乗用自動車を停車させて、同女の右腕を掴んで降車させたうえ、同女に対し、口々に「手前らの通る道じやない。」「お前は今日は何の日か知つとるのか。」「こんな車叩きこわしてひつくりかえしてやろうか。」などと怒号しながら車体を叩いたり足蹴りし、さらに交々平手、手拳で同女の左右の肩および喉を突くなどし、もつて数人共同して同女に脅迫暴行を加え

たものである。

罪名および罰条〈省略〉

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